まほろば創研

予知保全のAI化でChatGPTが難しい理由。「AIなら何でもできる」は誤解

2026.06.01

コラム

#予知保全

#AI

#ChatGPT

小森 一輝

小森 一輝

まほろば創研 代表取締役

「予知保全って、ChatGPTでなんとかなりませんか?」

最近、お客様や現場の方から、この質問を本当によくいただきます。

気持ちはすごくわかります。ChatGPTは文章も書けるし、調べ物も得意だし、聞けばなんでも答えてくれる。これだけ賢いんだから、設備の故障予測くらい朝飯前なんじゃないか、と。

先に正直な結論をお伝えします。
予知保全をChatGPTでやるのは、かなり難しいです。
ChatGPTがダメだという話ではありません。むしろChatGPTは優秀です。ただ、予知保全という仕事は、ChatGPTが得意なこととは根本的にズレているんです。

この記事では、なぜChatGPTでは予知保全が難しいのかを、できるだけかみ砕いてお話しします。「そもそも予知保全って何?」という方は、先にこちらを読んでいただくとわかりやすいです。
予知保全とは?基本から導入ステップまで現場目線で解説しています。

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「ChatGPTでなんとかならない?」は、よく聞かれます

「ChatGPTでなんとかなる?」とよく聞かれる質問

実際にあった話をします。

予知保全のご相談をいただくとき、「ChatGPTがこれだけ優秀なんだから、それでなんとかなりませんか?」と聞かれることが何度もありました。

中には、自分でChatGPTを使って試してみた、という方もいらっしゃいました。
ただ、話を聞いてみると、うまくいかなかったと。設備のことを聞いても、業務の知識がないからまともに答えられない。あるいは、それっぽい答えは返ってくるけど、中身が間違っていたと。

この「なんとなく期待しちゃう」感じと、「やってみたら違った」というギャップ。
ここに、予知保全とChatGPTの関係がぜんぶ詰まっています。

念のため言っておくと、ChatGPTを責めているわけではありません。文章を書く、要約する、アイデアを出す、こういう仕事ではChatGPTは本当に頼りになります。私たちも毎日使っています。
問題は「使う場所」なんです。

そもそも「AI」はひとつじゃない

AIはひとつじゃない。言葉のAIと異常検知のAIは別物

一番お伝えしたいのはここです。
「AIなら何でもできる」というのは、実は誤解です。

ChatGPTが一気に広まったおかげで、「AI=ChatGPT」みたいなイメージが定着しました。
でも実際には、ひとくちにAIといっても種類がいろいろあって、得意なことが全然違います。

ChatGPTは言葉を扱うAIです。膨大な文章を学習して、「次に来そうな言葉」を予測するのが得意。だから会話も翻訳も文章作成もできる。

一方、予知保全で使うのはセンサーのデータから異常を見つけるAIです。現場のデータから「いつもの状態」を学習する、いわゆる機械学習のしくみ。
振動、温度、電流、音——こういう数値の流れを見て、「いつもと違う」を検出する。やっていることは、文章を書くのとはまったく別の仕事です。

同じ「AI」という言葉でも、包丁とドライバーくらい用途が違う
ChatGPTに異常検知をやらせるのは、包丁でネジを締めようとするようなものなんです。切れ味がいいかどうかは関係ない。

「いやでも、ChatGPTは画像も読めるよね?」と思うかもしれません。たしかにその通りで、最近のChatGPTは写真を見せれば、その内容を説明してくれます。設備の写真を見せて「これは何ですか?」と聞けば、それなりに答えてくれる。
ただ、予知保全の画像検査で本当に必要なのは、ひび割れや腐食の、ごく小さな兆候を見分けることです。「なんとなく錆びてますね」ではなく、「この劣化が、いつ故障につながりそうか」というレベルの細かい判断。ChatGPTは画像をざっくり捉えるのは得意でも、そういう細部まで突き詰めて判定するようには作られていないんです。

画像で配管の腐食を見つける予知保全は、すでに実用が始まっています。
工場配管の腐食検査を映像×AIでスクリーニングする方法を解説しています。

予知保全のAIが具体的に何をしているのかは、こちらで詳しく書いています。
予知保全×AI活用事例5選。AIが実際に何をしているのかを解説しています。

ChatGPTが答えられない、決定的な理由

ChatGPTが答えられない理由。判断する材料がそもそも無い

じゃあ、なぜ「言葉のAI」では予知保全ができないのか。
理由はシンプルで、ChatGPTは「知らないこと」は答えられないからです。

ChatGPTは、インターネット上に公開されている文章を大量に学習しています。だから世の中に出回っている一般的な知識には強い。
でも、予知保全に必要な情報は、そのほとんどがネット上に存在しません。

現場ごとに「正常」が違う

現場ごとに「正常」は違う。いつもの状態は工場の数だけある

予知保全の出発点は、「いつもの状態(正常)」を知ることです。
いつもの状態がわかって初めて、「いつもと違う(異常)」に気づける。

ところが、この「いつもの状態」は、設備ごと・現場ごとに全然違います。
同じ型番のポンプでも、置かれている場所、つなぎ方、使い方、周りの温度で、正常な振動も電流もまるで変わる。隣の工場のデータがそのまま使えるわけじゃないんです。

ChatGPTは、あなたの工場のあの設備が「いつもどんな状態なのか」を知りません。
知りようがない。そのデータは、あなたの現場にしか存在しないので。

「何が異常か」は、世の中に公開されていない

「何が異常か」は門外不出のノウハウ。ベテランの頭の中にしかない

もうひとつ。「どうなったら危ないのか」という判断基準。
これは各社が長年かけて積み上げてきた、門外不出のノウハウであることがほとんどです。

「この音がしたら、あと2週間でベアリングが逝く」
「この電流の揺れ方は、ベテランしか知らない危険信号」

こういう知見は、論文にも、メーカーのマニュアルにも、ネットのどこにも書いていません。
書いていないものは、ChatGPTも学習できない。だから答えられないか、もっともらしく間違えるしかないんです。

さっきの「試したけど間違っていた」という話は、まさにこれです。
ChatGPTが悪いんじゃなくて、答えるための材料を、そもそも誰も与えていないだけなんですね。

「優秀だからこそ、堂々と間違える」怖さ

優秀だからこそ堂々と間違える。自信満々の誤答が一番危ない

ここが予知保全で一番怖いところです。

ChatGPTは、わからないときでも「わかりません」とはあまり言いません。それっぽい答えを、自信たっぷりに返してきます。
雑談やアイデア出しなら、多少ズレていてもご愛嬌です。

でも予知保全は、「この設備、止めるべきか動かし続けるべきか」という判断に直結します。
ここで「たぶん大丈夫です」と自信満々に間違えられたら、どうなるか。
止めるべき設備を動かし続けて、突発故障でラインが止まる。逆に、問題ない設備を止めて生産をムダにする。どちらも痛い。

判断を間違えたときのダメージが大きい仕事ほど、「それっぽいけど間違ってるかもしれない答え」は使えません。
これは賢さの問題ではなく、仕事との相性の問題なんです。

じゃあ、ChatGPTは予知保全にまったく使えないのか

向いてる仕事だけ任せる。言葉まわりの作業はChatGPTが得意

いえ、そんなことはありません。使いどころを分ければちゃんと役に立ちます。

たとえば、こういう周辺の作業はChatGPTの得意分野です。

  • 点検記録や日報を、読みやすい文章にまとめる
  • 分厚いマニュアルから、必要な箇所を探して要約する
  • 「予知保全って何から始めればいい?」の相談相手(壁打ち)

要するに、言葉まわりのサポート役としては優秀なんです。
任せられないのは、肝心の「センサーデータを見て、この設備が壊れそうかを判断する」という中心の部分。ここだけは、ChatGPTの仕事じゃない。

「全部ChatGPTで」でもなく「ChatGPTなんて無駄」でもない。向いている仕事だけ任せる。これが現実的な付き合い方だと思います。

予知保全のAIは、結局どう作るのか

予知保全のAIは現場のデータで専用に育てる

じゃあ中心の部分はどうするか。
答えは、あなたの現場のデータで、専用のAIを育てるしかありません。

やることの順番は、ざっくりこうです。

  • まず、対象の設備から「正常な状態」のデータを集める
  • その現場の「いつも」を、機械学習でAIに覚えさせる
  • 現場のベテランの知見を、判断基準として組み込む

つまり、ネットから知識を借りてくるのではなく、現場の知識をAIに移していく作業です。
ここにはセンサーやデータの扱いに加えて、「設備のことがわかっている人」の関わりがどうしても欠かせません。

だからこそ、予知保全のAIは「AI得意です」という会社ならどこでもできる、というものではないんです。このあたりは予知保全の導入全体の進め方にもつながるので、はじめての方はこちらもあわせてどうぞ。
予知保全とは?「一番困る設備」1台から始める進め方を解説しています。

「うちの設備でも、ChatGPTじゃなくてちゃんとしたAIで予知保全できる?」
そんな疑問があれば、現場の状況をうかがいながら一緒に考えます。気軽にご相談ください。

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小森 一輝

この記事を書いた人

小森 一輝

まほろば創研株式会社 代表取締役

同志社大学文化情報学部卒。日本マイクロソフトにてAzureを活用したインフラ設計支援・生成AI導入を大手企業や官公庁向けに実施。技術書典にてAzure×AI活用の技術同人誌を頒布。現在はまほろば創研にて、検査会社との共同開発プロジェクトを含む予知保全特化のシステム・サービス開発に取り組んでいる。

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